クルド人難民Mさんを支援する会 ブログ

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第三部「新聞報道と入管問題 -入管に翻弄される外国人-」 平野雄吾 記者 (共同通信)【2020世界難民の日オンライントークイベント】

 2020年6月21日(日)に開催しました2020世界難民の日トークイベント映像をアップしましたので、順次ご紹介させて頂きます。

第三部は「新聞報道と入管問題 -入管に翻弄される外国人-」 と題しまして共同通信の平野雄吾 記者にご講演を頂きました。

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第三部「新聞報道と入管問題 -入管に翻弄される外国人-」 平野雄吾 記者 (共同通信)



youtu.be

 

https://youtu.be/3NVgPhgeq6U

(38分10秒)

 

 数年前までは大手メディアで報道されることが非常に少なかった入管問題ですが、2017年夏より平野記者が取材を重ね、多数の記事を配信してくださったことにより、他社も記事を掲載するようになりました。
 一連の報道が評価され、2019年度第25回平和・協同ジャーナリスト基金の奨励賞を受賞。選考委では「入管収容施設における外国人に対する非人道的な扱いは、一般の人にはほとんど知らされていない。それを明らかにした先駆的な報道」「この一連の報道で他紙もこの問題を取り上げるようになった点を買いたい」といった声が上がりました。

 報道の増加により入管に変化は起きたか。取材を通じて感じたことをお話し頂きました。

 

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東京入管における日系ブラジル人クスノキアンドレさんに対する制圧映像の上映

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送還忌避者の実態。トルコ出身の難民申請者の認定状況(諸外国と日本の比較)

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コロナが非正規滞在者に及ぼした影響について

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日本人が住まなくなった家屋を解体するクルド人労働者の写真を示しながら

2020年6月21日(日)
2020世界難民の日トークイベント
第三部「新聞報道と入管問題 -入管に翻弄される外国人-」
    平野雄吾 記者 (共同通信)


共催:クルドを知る会
   日本クルド文化協会
   クルド人難民Mさんを支援する会
協力:アムネスティ・インターナショナル日本

 

平野記者の講演内容を抜粋してご紹介します。

入管収容施設での暴行として、東京入管における日系ブラジル人クスノキアンドレさんに対する「制圧」の映像が上映されました。
2018年10月、東京入管に収容されていたクスノキさんは東日本入国管理センター(牛久入管)に 移送されることになりました。なぜ自分は移送されるのか?あそこは自殺者が出たような場所なのに。理由を教えて欲しいと、質問し続けるクスノキさんに対し、5~6人名以上の職員が取り囲み、「制圧」行為を行いました。
うつぶせにした状態で職員がクスノキさんの頭や身体を床に押さえ付け、痛いと叫んでいるにもかかわらず、職員が所持品の確認作業などで平然と話し掛けている様子は異常としか言えない光景でした。
制圧行為によってクスノキさんは左肩を負傷。左腱板損傷と診断されたとのこと。
クスノキさんの息遣いまでも伝わってくる生々しい映像に、視聴者からは複数の質問が寄せられました。

送還忌避者の実態の資料として、諸外国(G7)と日本のトルコ出身の難民申請者の認定状況の比較がありました。
他の先進国がトルコ出身の難民申請者を27~97%の割合で難民認定しているのに対し、日本の認定率は0%であり、際だっているとのこと。
このような現実の中で、難民申請を繰り返すトルコ人が送還忌避者に該当して、今度は、罰則付きで犯罪者になるというのは、果たして合理性があるのか疑問です、と説得力のある解説をして下さいました。
また、難民申請者が急増していることについては、これは実際には技能実習、留学生、特定技能の問題と絡んでいて、結局は移民政策がないことに起因するのだろうと個人的には思います、とのことでした。

講演の最後のお話しはとても印象的でした。
クルド人労働者が解体作業をしている写真を示しながら「これは何をしているのかと言うと、解体作業ですね。先ほどの仮放免者が働いているケースとして、解体業があるわけですけども、彼が壊している家というのは、日本人が住んでいた家なんですね。日本人が住まなくなって、どうしようもなくなったところを、クルド人の力を頼って壊していると。それが今日本の現実であって、果たして彼が本当に送還を忌避して、犯罪者というカテゴリーに入れられるべき人なのか、というのをもう一度考えてみたいと思います」と締め括られました。

 

トークイベントでは平野記者に多くの質問を頂きましたが、時間の都合上、お答えできなかったものがありましたので、そちらにつきましては下記に回答を掲載させて頂きました。

多くの質問をお寄せ頂きありがとうございました。

 

【質問1】
 2018年の段階で、まだクスノキさんのようなビデオをメデイアで公開するのが難しかったのですか?入管の中の状況をマスコミに公開する難しさは、ありますか?記者の経験を元に教えてください。
また、入管職員を取材することがあると思いますが、入管で働く方々を接触して、どんな人ですか?入国管理局の組織や仕組み、働き方は、どのように見えましたか?

 

【平野記者からの回答】
 制圧事案が発生したのは2018年10月ですが、私自身がこれを把握したのは2019年夏ごろです。その後、確認作業を進め記事にしても間違いないという段階までウラ取りができて新聞記事にできたのが2019年11月でした。イベントで上映した映像を入手できたのはもっと後のことです。
 入管内部の状況を公開するのは非常に難しいです。その理由は簡単で、外部からは簡単にアクセスできないこと、入管当局が積極的にトラブル事案を発表しないことに尽きます。入管当局に確認取材をしても「プライバシー」「保安上の理由」という説明が繰り返され、具体的な内容ははっきりしないままです。そういう状況で細かい日時、状況を調べて間違わないように記事にするのは大変だと感じています。

 名前を出すことに関していえば、できる限りリスクを含めて説明した上で納得してもらい記事にしています。記事は原則実名で、その方が説得力も確からしさも高まるし、なにより、記号ではなくて1人の人間として当事者の思いが伝わるからです。

 入管で働く人も多様なので、一概にこういう人だというのは難しいです。ただ、組織全体で見れば、上からの指示に忠実な人が多いと言えると思います。もっとも、どの行政組織も、あるいはどの日本の組織もそうなのかもしれませんが。そして、声の大きい人が力を持つ構造になっているように思います。

 公式の取材窓口の広報担当の職員とのやりとりは国会答弁のようなものをイメージすると分かりやすいかもしれません。森友問題や加計問題で野党側の追及に対して、政府側委員がどのように答弁したのかは多くの人がご存知だと思いますが、新聞記者と入管との公的窓口での取材はあんなやりとりに終始しています。

 

【質問2】
 2点、質問させてください。1点目、先ほどのクスノキさんの制圧の映像をSNSなどで公表して日本の入管で日常的に起きている差別、人権蹂躙事件として世論に訴えることは難しいのでしょうか? 

 2点目、この問題は政権交代により改善の余地があるのでしょうか?民主党政権の間は何か変化があったのでしょうか?

 

【平野記者からの回答】
 制圧の映像が入手できれば、公開するのはそれほど難しくはありません。共同通信はこれまでに2回、制圧事件について映像配信しています。

(大阪入管)
https://www.youtube.com/watch?v=KE8NFRwUVfw

(東日本入国管理センター)
https://www.youtube.com/watch?v=6K30zOULa5I

今回のクスノキさんの映像に関していうと、映像入手は比較的最近実現したので、まだ公開まで至っていないという段階でした。

 政権交代については、入管関係者から話を聞く限りでは、民主党政権時も今とそんなに大きな変化はないということです。ただ、当時の民主党政権下で入管問題が主要テーマとはなっていなかった上、現在のような送還忌避者の問題が深刻化するのは安倍政権になって以降の話です。
 特定技能制度をはじめ安倍政権の移民政策(公式には存在しないことになっていますが)を見ていると、排外主義的な傾向がみられるので、政権交代した場合に入管政策にも変化が起きる可能性はあります。ただ、どんな政権になるかは不明なため、なんとも言えません。

 現在の米国、あるいは欧州諸国のように移民難民問題をどうするかという議論を各政党が選挙戦で戦わせれば、その後の政権次第で変わる可能性はあると思っています。
 要は、日本人全体がこの問題をどう認識し、どう解決するかにかかっているのではないでしょうか。まずは多くの国民が知らなければならないと思っていますし、そのためにもメディアや市民運動は重要だと考えています。

 

【質問3】
 入管職員へ人権に関する研修はないのでしょうか。彼らの中から内部の暴露などあるのでしょうか?

 

【平野記者からの回答】
 人権教育は入管当局内部でなされていることになっています。ただ、それ以上に問題が生じた際に「隠す」マインドの方が強いのが現実です。内部告発については1990年代の一時期あったと把握していますが、最近はありません。外国人の長期収容を巡っては、精神疾患を患う収容者も多く、現実問題としてはこうした収容者に接する現場の職員も疲弊しています。「強制送還によってのみ収容問題を解決する」という入管庁全体の大方針の下で、政策と現実との矛盾の中で収容者、現場の職員双方が苦しんでいるのが実態だと思います。
 デニズさんの映像を見ても分かると思いますが、暴行、制圧を加えている職員の中には、消極的に、上からの指示で「やらされている」と見受けられる職員の姿もあります。上からの方針や指示に忠実な一部の声の大きな職員がいて、そうした人たちが現場を仕切っているというのが実態ではないでしょうか。離職する入管職員の数も増えています。


【質問4】
 入管内部での出来事を取材するとき、入管側は基本的に非公開としますが、これまで書かれた記事を含め、当事者の証言だけでなく、ほかに、どのように確かめる手段を取られていますか。


【平野記者からの回答】
 たしかに、当事者の話だけで記事にすることは基本的にはできません。私が確認手段として心がけていたのは入管当局が作成している内部文書の入手でした。
入管施設では、制圧や隔離処分があった際に、センター長や地方入管局長ら幹部に充てた報告書の作成が義務付けられています。いかにこうした文書を入手するのかが取材では大切でした。